お医者さんがする大麻とCBDの話:圧倒的に良質な本。大満足です

本の概要

この本は大麻が危険ではないということ、役に立つということ、大麻で逮捕するのは誰の事も幸せにしないということ、そして大麻取締法は改正が必要だということをわかりやすく説明するために書かれました。

読んでみて思ったこと

大麻の知識を学ぶ為に購入しました。

結論としては、圧倒的に良質な本でした。大麻の効果を研究データから証明しており、説得力が高いです。日本語で存在する書籍の中では、最も品質が高いです。

この本の著者は「GREEN ZONE JAPAN」というサイトも運営しており、こちらも良質です。Google検索するよりも、このサイト内で検索する方が、良質な情報にたどり着けると思います。

» お医者さんがする大麻とCBDの話(著:正高佑志)

僕のハイライト

本が良質で引用が多いので、当記事はGoogle検索に表示させない仕組みになっています。下記がすべてのハイライトです。

今日ではすっかり〝悪役〟に仕立て上げられてしまった大麻草ですが、終戦までは日本でも栽培が推奨されていました。全国各地に、〝麻〟という文字を冠する地名が多くありますが、これはかつて大麻が栽培されていた名残です。大麻草の成長は非常に速く、3~4カ月で2・5メートル程の高さに達し、またその茎は天に向かって真っ直ぐに伸びます。そのため丈夫で良質な繊維がとれるのです。実際に戦争中のロープは大麻草から作られていましたし、天皇陛下が即位する際に着る着物(あらたえ)も大麻から作られています。衣服以外にも、大麻繊維からは紙が作られます。19世紀の末、パルプからの製紙業が盛んになるまで、世界の紙のおよそ75~90%は大麻草から作られていたと言われており、アメリカの独立宣言の草稿も、大麻紙に書かれていました。種は食べることができ、たとえば皆さんが蕎麦やうどんに振りかける七味唐辛子の中に入っている麻の実は大麻の種です。

重要なのは、大麻が様々な成分の〝盛り合わせ〟だということです。覚せい剤やシンナー、コカインなどはいずれも、精製して作られた単一の化合物です。一方で、大麻にはTHC以外にも、大麻にだけ含まれる独特の化合物が100種類以上含まれており、それらはまとめてカンナビノイドと呼ばれています(英語で大麻のことをカンナビスというので、カンナビノイドなのです)。またそれ以外にも、テルペンと呼ばれる香気成分が含まれています。たとえば、レモンの香りの源であるリモネンや黒胡椒の香り成分であるβ-カリオフィレンなどが、大麻にも豊富に含まれます。大麻の精神作用や薬効は、THCだけでなくこのような微量成分のハーモニーとしてもたらされているのです。これはカレーライスの味が、様々なスパイスの調合により完成するのと似ています。

これは漢方薬にも似ています。西洋医学の薬が単一の精製化合物であるのに対して、漢方薬は何種類もの植物に含まれる成分が合わさって薬効が立ち上がる仕組みになっています。実際に中国で書かれた最古の漢方薬草図鑑である『神農本草経』では大麻草の花穂は長期の使用でも副作用の恐れがない〝上品〟として記載されています。

2001~2005年にかけて合衆国で行われた大規模調査(次の図)では、初めて大麻を吸った人が依存状態になる確率は8・9%と考えられています(ちなみにタバコの場合は67・5%、お酒の場合は22・7%が最終的に依存状態に至ると結論されています)。[5]

アメリカの国立薬物乱用研究所(NIDA)のホームページには、大麻使用者の大半は、その他のハードドラッグの使用に進むことはないと明記されています。[8](ゲートウェイ仮説)

ニュージーランドの疫学調査の結果、人生の早い段階から大麻を使用している人の間では、後の人生で統合失調症のような精神障害が出現するリスクが1・5~2倍、高くなることが示されています。[10]イギリスの調査では大麻の使用者は非使用者と比較して、精神疾患を経験するリスクが2・6倍になると報告されています。しかしこの数字は他の薬物の健康被害と比較すると比較的小さな影響と言えます。たとえば、タバコを吸う人が吸わない人と比べて肺がんになる危険性は20倍です。[11] しかしこの30年間で、イギリスにおける大麻の使用率は爆発的に上昇しましたが、統合失調症や精神病症状を呈する患者の数は減少しています。もし本当に大麻が精神病の原因になるのなら、合法化によって患者が増えるはずですが、そのような報告はありません。様々な調査の結果、これらの慢性精神病は、一部の遺伝的な脆弱性を持つ人々が早期に使用を開始した場合のみにリスクが高まると考えられています。統合失調症の診断を下された方や、家族に統合失調症患者がいる方に関しては、法律面とは別にこれらの精神への影響に対する配慮が必要です。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が1985年から20年、4都市で大麻とタバコの喫煙者、5115名を前向きに追跡した研究は、その規模や研究デザインから、大麻が肺機能に与える影響に関する研究の決定版と言えます。[13]当初、研究者達はタバコほどではないにせよ、大麻の喫煙は肺機能を損なうと考えていました。しかし結果は予想外のものでした。次の図は、タバコと大麻をこれまでに吸ってきた喫煙量を横軸に、一秒率(喘息やCOPDで低下する値)を縦軸に取ったものです。黒がタバコの喫煙者の値で、吸えば吸うほど肺機能が悪化していることがわかります。一方、グレーが大麻の喫煙者です。一定量までは、むしろ肺機能が改善し、その後緩やかに低下しています。吸い始める前と同じ値になるのは、およそ30ジョイント・年であり、これは365×30=1万950本の大麻タバコを生涯で吸った時点ということになります。また肺活量に関しても、タバコでは吸えば吸うほど低下しましたが、大麻では使用に比例して上昇することが示されました。この結果を受けて、主任研究員のマーク・プレッチャーは、〝通常の大麻使用の範囲で肺機能が低下する心配はない〟とコメントしています。[14]

処方された唯一の治療薬の効果は乏しく、3年から5年で失明するだろうと医師に宣告された1973年のある日、友人からもらった大麻を学生時代以来久しぶりに吸った彼は、一時的に見え方が回復していることに気がつきました。大麻に含まれるTHCには眼圧を低下させる作用があるのです。これが自身を失明から救う唯一の手段と確信した彼は、主治医にも隠れて大麻を常用し、そのおかげで視力の回復を得ます。しかし問題は費用です。闇市場で高額な大麻を継続的に入手し続けることが困難であった彼は、自宅で栽培を始めましたが、1975年のある日、逮捕されてしまいます。しかし、ランドールはここで諦めず、人道的見地から自らの大麻使用は正当防衛として認められるべきだと法廷で無罪を主張します。検査の結果、実際に大麻の使用による眼圧の低下が確認され(そしてそれ以外の薬では彼の眼圧を低下させる事が不可能なことが示され)、彼は国家を相手に勝訴し、無罪を勝ち取ったのです。それだけではありません。ミシシッピ大学で栽培している研究用の大麻タバコを合法的に供給される約束を取り付けたのです。政府としてはこの事実をなるべく公にしたくなかったのでしょうが、政治家のスピーチ原稿の作成を本職にするほど弁が立ったランドールは伝道に捧げるようになります。

大麻草が幻覚様の症状を引き起こすという報告はありますが、その大半は元々統合失調症に罹患しているなど体質的に脆弱性が認められるケースであり、健康者では極めて珍しいようです。また大麻草でなく単離されたTHCの摂取後がほとんどです。[26]

2014年にはCBDに関してのアメリカ連邦法が改正されました。THCが0・3%未満の大麻の品種に関しては、〝大麻〟ではなく〝ヘンプ〟として、別の植物として扱われる事になったのです。そして2018年末、ヘンプは規制薬物から除外されました。

2021年5月時点で嗜好品としての大麻の合法化を行なっているのは、ウルグアイ、カナダ、アメリカの17州とワシントンDC、ジョージア(グルジア)、ルクセンブルクになります。なお合法化が実施された地域の一部では、過去の大麻所持での犯罪歴が削除されています。[41]

重要なのは、いまだ連邦法のせいで大企業は参入できないため個人起業家にチャンスが巡ってくる点です。これはまさにアメリカンドリームです。全米でいち早く2014年から嗜好大麻の販売を開始したコロラド州では、合法大麻による税収が5年間で1000億円を突破しました。[42]コロラド州の人口は兵庫県とほぼ同じであり、兵庫県における年間たばこ税の総額が52億円であることを考えるとかなりの金額です。

2020年12月に歴史的な転換点が訪れました。国連麻薬委員会(CND)が、加盟国の投票の結果、1961年に制定された「麻薬に関する単一条約」の分類上での大麻の扱い見直しを決定したのです。この改正で大麻はスケジュールⅣ〝危険性が高く医学的な価値がない薬物〟という分類から外れ、スケジュールⅠの〝医学的有用性は認められるが依存性が強く取り扱いに注意が必要な薬物〟という医療用麻薬と同じカテゴリーに位置することになりました。つまり医療大麻の価値が国連に認められたという事です。

ミクリヤが発見した医療大麻が有効な可能性のある疾患一覧は、「Dr.ミクリヤのリスト」として今も引用され続け、このリストには次の表のような身近な病名が挙げられています。[46]

Tod H. Mikuriya List

また実際に合法化された地域での州政府が認めた適応疾患・症状には以下のような病名が含まれます(アルツハイマー型認知症、AIDS/HIV感染、ALS、がん、炎症性腸疾患、緑内障、多発性硬化症、パーキンソン病、PTSD、偏頭痛、慢性C型肝炎、トゥレット症候群、線維筋痛症、自閉症、終末期状態、食欲低下、嘔気・嘔吐、てんかんなど)。[47]にわかには信じがたい話でしょう。

内因性カンナビノイド、内因性カンナビノイド受容体、内因性カンナビノイド分解酵素はあわせて、〝エンドカンナビノイドシステム(ECS)〟と呼ばれています。このエンドカンナビノイドシステムは一言で言うと、身体のバランスを整える作用を司っています。

現時点でエンドカンナビノイドシステムの低下との関連が強く疑われている病気の代表格は偏頭痛、過敏性腸症候群、線維筋痛症です。この3つの病気は、1人の患者さんの中で合併しやすく、たとえば重症の偏頭痛の患者さんには、消化器の不調や原因不明の全身の痛みが合併しやすいという研究結果が報告されています。[53]これらの疾患には根底に共通の原因があると考えるのが自然です。その答えが、エンドカンナビノイドシステムの不調ではないのかということなのです。その他にも拒食症、パーキンソン病、自閉症、PTSD、統合失調症、うつ病、子宮内膜症など、様々な病気でエンドカンナビノイドシステムの関与を示す研究結果が報告されています。[54][55][56][57][58][59][60]

私の経験では、日本で違法に大麻を所持している人達は総じて〝感情的になりやすい〟という傾向があるように思います。普段は怒りっぽいけれど、大麻を吸うと人並みに穏やかな気持ちで暮らすことができる。そういう人は生まれつき内因性カンナビノイドが足りていないのかもしれません。これは今後、病気として認められる可能性があります。というのは、今、世界で医療大麻が治療法として認められつつあるからです。皆さんはまず病気があって、それに対して治療法が見つかると思っているかも知れません。実は近年では、逆の順序があり得ます。まず治療法が見つかって、それが効く症状が病気として定義されるのです。最も有名なのはADHD(注意欠陥多動症候群)のケースです。私が小学生だった頃、まだこの病名は存在せず、授業中に座っていられない子は〝落ち着きのない子〟でした。それが、リタリンやコンサータという治療薬の開発に伴い、ADHDという病気と認められるようになりました。是非はともかく、近年では一部の〝ハゲ〟をAGAという病気と捉えようという動きも認められます。これも育毛技術の発達によって生まれた疾患概念です。同じように医療大麻という治療法が認められると、これまで〝怒りやすい人〟と言われていた人が、内因性カンナビノイドが足りない病人として認められるかもしれません。そうすると、彼らにとっての大麻は、甲状腺ホルモンが足りない人にとってのホルモン剤のような扱いとなるでしょう。

医療大麻と病気の研究成果①がん今日、日本人の2人に1人ががんに罹患する時代といわれています。医療大麻はがん治療において、「生活の質を高める作用」と「腫瘍を縮小し、病気を治す作用」の両方が期待されています。・医療大麻による生活の質(QOL)の改善についてがんは食欲低下、体重減少、うつ、不眠、痛みなどの様々な症状を引き起こしますが、それらの症状に対して、医療大麻は幅広い効果を有し合法地域では頻用されています。[69]

大麻草に含まれるTHCやCBDには、がん細胞を細胞死(アポトーシス)に誘導する抗がん作用があることが基礎研究の結果、明らかになっています。また、がん細胞の血管新生を妨げ、転移を抑制する作用も有しています。[71]

代替医療として大麻を使用し、がんが縮小・完治したという報告は、がんの種類を問わず多数報告されています。皮膚がんに対して大麻が有効なことを広く世に知らしめたのは、1人のカナダ人でした。[72]大麻のTHCがマウスのがん細胞を消失させたことをラジオで聞いたリック・シンプソンは、自分の目の周りにできた基底細胞がんに、自家製の濃縮大麻オイルを垂らし、絆創膏で4日間押さえたままにしておきました。絆創膏をはがしたときの彼の驚きは、いかほどだったでしょう。なんと、腫瘍が剥がれ落ち、その下には正常のピンク色の肌が再生していたのです。自らの体験から効果を確信した彼は、自分の周囲の人に自家製のオイルを提供し、また作り方を公開します。医師の不理解や警察による逮捕にも屈せず、彼は草の根の活動を続け、彼によって命を救われた人の数は5000人を超えたと言われています。彼が考案した濃縮カンナビスオイルは彼の名にちなみ、「リック・シンプソン・オイル」と呼ばれています。

このオピオイド危機を収束させるための切札として期待されているのが医療大麻です。オピオイド系鎮痛薬が死亡事故につながるのは、脳に作用し呼吸停止を引き起こすからですが、大麻は呼吸中枢には作用しないため、どれだけ大量に摂取しても呼吸停止は起きません。大麻は、麻薬に代わる安全な鎮痛薬の選択肢として、アメリカで急速に支持を伸ばしつつあります。

2017年のUCバークレー校の2897名の医療大麻患者を対象とした調査では、過去6カ月にオピオイド系鎮痛薬を使用したことのある患者の97%が大麻を併用することでオピオイドの量を減らすことができたと答えました(また81%は、〝自分が求める医療効果を得るのに大麻単体の方がオピオイド併用よりも効果があった〟と答えています)。[84]

実は偏頭痛は内因性カンナビノイドの不足によって、引き起こされているのではないかと示唆する研究結果が報告されています。[92]

線維筋痛症という病気の知名度は、それほど高いとは言えませんが、厚労省の調査では国内に百万人以上の患者さんが存在するようです。線維筋痛症の症状としては、他で説明のつかない全身の痛みやこわばり、疲労感、不安、抑うつ、睡眠障害などが挙げられます。線維筋痛症もエンドカンナビノイドシステムの機能不全が関係する病気の代表と考えられています。[98]この病気に大麻が有効であると考える1つ目の根拠は、2011年にバルセロナのJimenaFizらによって発表された論文です。[99]

2つ目は2014年にアメリカの「NationalPainFoundation」によって行われた線維筋痛症患者1300人に対するインターネットアンケートの結果です。[100]患者さんはFDAが認可している線維筋痛症の治療薬である、プレガバリン(リリカ)、デュロキセチン(サインバルタ)、ミルナシプラン(トレドミン)と大麻のうち使用経験があるものに対して、とても有効、そこそこ有効、無効の評価を行いました。すると標準治療薬の使用者のうち、効果があったと感じたのは10%程度に過ぎないのに対して、大麻使用経験者の62%が、大麻がとても有効だと感じていたのです。

2017年に日本全国でうつ病で病院にかかった人数は、127万6000人。病院に受診していない方を含めると500万人のうつ病患者が国内にいる計算になります。[104]また15歳から40歳までの死亡原因の第1位は自殺で、年間の自殺者数は公式発表では2万2000人程度とされています(実際にはもっと多くの方が自ら命を絶っているのではないかと思われます)。[105]貴方にとって最も身近で、かつ最も危険な病気がうつ病なのです。ガイドラインを参照すると、うつの治療にはSSRIという種類の抗うつ薬が第1選択として推奨されています。しかし残念ながらこれらの治療薬は効果がはっきりしないことに加え、むしろ自殺率を上昇させる可能性が指摘されています。欧米ではSSRIの服薬に伴う自殺を巡って医療訴訟が多発し、社会問題になりましたが、日本ではそれほど問題視されていないようです。現代医学はうつ病に対して充分な対処が出来ているとは言い難いでしょう。

また2020年に「Releaf」というアプリを使用して、うつ症状に対して大麻を使用した1819人の症状改善を評価したところ、95・8%のユーザーが改善を自覚していることがわかりました。症状は平均して使用前の1/3程度に軽減しました。[109]

日本では、成人の30%以上が睡眠に関する悩みを抱え6~10%が不眠症とされています。2009年の調査では、この国の大人の20人に1人が睡眠薬を飲んでいたということです。この割合は年齢と共に上昇し、80歳以上の女性では20%以上が睡眠薬を使用しています。

睡眠薬として最も広く使用されているのがベンゾジアゼピン系およびそれに類似した系統の薬です。精神安定剤としても使用されるベンゾは切れ味の良い薬で、誰に対しても初日から効果を発揮します。そのため、日本では比較的気軽に処方される傾向がありますが、耐性がつくことによる増量と依存の形成や、特に高齢者での認知機能低下のリスクや脱抑制による不穏、筋弛緩作用による転倒増加などの問題点も指摘されています。2018年のオーストラリアの家庭医へのアンケート調査(次の図)では、「大麻とベンゾ系でどちらがより安全と感じるか?」という質問に、大麻の方が安全と回答した医師の方が3倍多いという結果でした。[110]少なくとも、大麻の安全性がベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べ著しく劣るということはないように思われます。

大麻を使用していないときには、長い人では寝付くのに5時間以上かかっていますが、大麻を使用すると大半の人が15~30分で入眠できていることがわかります。また使用者の79%が睡眠の質の改善を自覚しました(実際にその他の研究で、大麻は深い睡眠を増やすことが示されています)。[112]

エンドカンナビノイドシステムは脳に働きかけることで、PTSDに対して保護的に機能する可能性が指摘されています。9・11のNY同時多発テロ現場の近くにいた46名を対象とした研究では、PTSDの診断基準を満たしていた24名は、満たさなかった22名と比較したときに、エンドカンナビノイドの一種である2-AGの値が著しく低かったという結果が得られました。[130]

2013年、デンマークの研究チームの報告では、5年以上の拒食症に苦しむ患者25名に合成THC(ドロナビノール)5mg/日を投与したところ、4週間の治療でプラセボと比較して0・73kgの体重増加が得られたと報告されています。[142]

これまでの複数の研究で、大麻ユーザーのカロリー摂取量は、非使用者と比べて多いことが示されています。それだけではなく、大麻喫煙者は非喫煙者よりも運動量も少ないようです。[155][156][157]食事は多く、運動は少ない。にもかかわらず、痩せている。となると考えられるのは、大麻が基礎代謝を活性化するということです。そして、そこには内臓脂肪から分泌される善玉ホルモン、アディポネクチンが関与していると考えられています。

糖尿病治療の基本は血糖値を正常に保ち、神経、腎臓、目などの合併症を予防することです。これまでに複数の研究で、大麻の使用がインスリン抵抗性を改善し、血糖維持に役立つ可能性が指摘されています。[162]

大麻を使用すると、目が充血して赤くなります。これは大麻に毛細血管を拡張させる作用があることを示しています。末梢の血管が開くと、理論上は血圧は低下します。大麻が作用する受容体は末梢血管にも存在しており、エンドカンナビノイドシステムは、降圧治療のターゲットになる可能性が指摘されています。[170][171]

現代医学が喘息に対する大麻の有効性を科学的に〝再発見〟したのは1970年代のことでした。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の呼吸器内科学教授、Dr.ドナルド・タシュキンは人工的に喘息発作を誘発させた8名の患者に2%THCの大麻とプラセボ(偽薬)を投与し比較しました。するとプラセボを使用したときは発作が治まるのに30~60分かかりましたが、大麻を吸入した時は発作は速やかに改善しました。[180]

痙性とは筋肉が過剰に興奮した状態が続く麻痺の一種です。MSの患者さんでは、罹患年数と共に頻度と重症度が増悪していきます。この痙性に対してGW製薬が製造販売しているTHC:CBD=1:1の医薬品、〝サティベックス〟は2010年での英国での承認を皮切りに、欧州約30カ国で医薬品としてMSの痙性に対する治療薬として病院で処方されています。痙性を和らげる目的でサティベックスを用いた患者では、痙性以外に痛み、不眠、排尿障害、失禁の改善が得られました。

カンナビノイドには、①炎症性サイトカインを抑制し、神経系での炎症を抑える効果があること②強力な抗酸化物質であること③グルタミン酸の分泌を抑制し、GABAを活性化することで抗グルタミン酸作用があることが報告されています。①~③はいずれも、ALSの発症メカニズムと関係があると考えられています。この共通点に着目したRamanらは2004年に、モデルマウスにTHCを投与したところ、運動機能の低下を遅らせ、寿命が延長することを報告しました。[189]また2014年にMorenoらはサティベックスがALSモデルマウスの病気の進行を遅らせ、寿命を延ばしたと報告しています。[190]

てんかんのうち、ドラべ症候群とレノックス・ガストー症候群、結節性硬化症に伴う難治てんかんという病気に対し、エピディオレックスというCBD製剤が、医薬品としての承認を得ています(先述)。どの病気においても、その他の薬で発作が抑えられなかった難しい患者さんだけを対象とし、発作の回数を半分に減らしました。また1割くらいの患者さんでは発作が完全に消失しました。[199]

「顕微鏡で組織を採ってきて確認されたステージⅢBの肺がん。順調に増大傾向にあったそれが、わずか12mg/日のCBDを摂取し始めると劇的に縮小した」これがこの論文の述べるところです。

2019年に始まったCOVID-19の流行当初から、大麻草の成分が持つ抗炎症作用や抗ウイルス作用は感染制御に役に立つのではないかと期待されており、[237]イスラエルを中心に多くの国で研究が進められています。[238]2021年にはシカゴ大学の研究チームから興味深い報告がなされました。細胞株を利用した実験で、通常は細胞内に侵入したウイルスが増殖するのに対し、CBDを投与した場合はウイルスの増殖が抑制できることが示されたのです。[239]

CBD製品は、その成分によって大きく2種類に分けることができます。1つが、CBDだけを含むアイソレート(単離製剤)と呼ばれるもの。これは大麻草から抽出した成分を一度分離し結晶化した純粋なCBDを溶かして作られます。日本で流通している製品の大半はアイソレートですので、特に記載がないものはアイソレート製品と考えていいでしょう。もう1つが、フルスペクトラム(ブロードスペクトラム)と呼ばれるタイプのものです。フルスペクトラム製剤にはCBD以外のカンナビノイドやテルペンなどの不純物も含まれます。不純物というと、無い方がいいように感じるかもしれませんが、薬としては様々な成分が含まれていた方が望ましいと考えられています。

④CBDには依存性や乱用性はないの?CBDはアメリカや欧州でエピディオレックスという名前の医薬品になっています。合衆国の法律は今でも大麻草をスケジュールⅠ(最も危険なグループ)に分類していますが、エピディオレックスは薬としての承認の際に、大麻とは別に、スケジュールⅤ(最も安全なグループ)に分類されました。スケジュールⅤというのはドラッグストアで買えるせき止めシロップと一緒です。さらに2020年には改正が行われ、乱用薬物としてのリストから外れることになりました。アメリカ政府が正式に、CBDには依存性・乱用性がないと認めたことになります。またCBDは国際的なドーピング規定からは除外されています。

病気とは診断されない、しかし大麻を定期的に使用する方が、生きるのが楽。そういう人は、潜在的にはたくさんいると思われます。このあたりが病気と体質の境界線です。この人達は、〝医療〟大麻の〝患者〟に含まれるのでしょうか?そもそもWHOの定義するところによると、健康とは「単に病気がないというだけではなく、身体的、精神的、そして社会的なWellbeingが保たれている状態」とされています。医療の目的が、広く健康を増進することであるのなら、精神的なWellbeingの改善、そして社会的なWellbeingの向上を目的とした大麻の利用も医療大麻ということになり、嗜好大麻との境界はより一層曖昧になります。もし大麻を吸うことで生きづらさが和らぐなら、それは全て医療大麻であるというのが私の見解です。


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